小さな雪の日のクワァームイ
投稿者:藤和 [home]
私の名前はアベルと申します。
ここ、東大陸の南部に位置するヴァイスラントに有る、
名もない村に住んでおります。
ここはほぼ一年を通して寒気が厳しく、雪が溶けることは有りません。
私が雪に覆われていない大地を見たのは、幼い頃、
家族と共に北にあるラウプホルツに行った際だけで御座います。
その時は、私と両親、そしてまだ幼い弟のカインと共に、
唯一寒気がゆるむ夏の日に、初めて、
そしてたった一度だけ、ヴァイスラントから出たのです。
そこはとても明るく、見たこともない木々が茂り、
今まで過ごしてきた村の寒気が、嘘のようでした。
私たち家族は、その初めての土地で楽しく数日間を過ごしたのです。
まるで夢の中にいるようでした。
けれども夢は長く続きません。
また厳しい冬が来る前に、
夏の間に村に帰らなくては行けないのです。
その道中の最中から、私は再び夢の中にいます。
楽しい夢ではなく、悲しい夢です。
村に帰る道すがら、野宿をしていたある日、カインが居なくなってしまったのです。
丁度その頃、子供ばかりを狙う人浚いが多いという話を聞いていたのに。
迂闊でした。
どんなに捜しても、
食料に余裕がある限り捜しても、
弟は見付かりませんでした。
そして何年も、十何年もたった今でも弟は見付かりません。
私は身体を病み、両親は諦めてしまっているのです。
見付かるはずもありません。
昔のことを思い出しつつ、何をするでもなく私が窓の外を見ていると、雪が降り始めました。
ここでは決して珍しい光景ではありません。
けれども、その舞い落ちてくる、僅かばかりの雪を見て、私は外に飛び出しました。
長らく煩っていたために、久しぶりに踏む雪の感触。
肌を刺す寒気の刃。
宙を舞う暖かな雪。
それらを感じながら、村の入り口に向かいます。
何故か突然、弟に、カインに会えるような気がしたのです。
そして、遠くから一つの影が近づいてきました。
私は期待に胸を膨らませました。
とても目立つ格好をした、傷ついた金髪の男。
残念ながら弟ではありません。
けれども、傷を放って置いたのでは、ここではすぐに凍傷になってしまいます。
私がその男に近づこうとしたとき、虚空から人が現れたのです。
驚いてしまった私は、思わず悲鳴を上げてしまいました。
それと同時に、胸に冷たい物が滑り込み、暖かい物が流れ落ちてきました。
純白の雪が紅く染まります。
けれども、そんなことよりも、私は目の前に現れた人物の顔に見入っていました。
ずっと、ずっと再会することを願っていた顔が、そこに存在したのです。
記憶の中に映像よりも、ずっと大人びて、大きく成長していましたが、
間違いなく弟のカインです。
薄れゆく意識の中で、彼が何かを言おうとしたその瞬間に、
彼の喉から紅い飛沫が飛び散るのを見ました。
先ほどの、手負いの男が切り裂いたのです。
「無関係の者にまで手を出すとは、サソリも質が落ちたな」
紅く染めた雪の上に身体をゆだね、世界が暗くなってゆく中で、
手負いの男のその言葉と、近くに倒れたカインの手が、私の手に重なるのを感じながら、
私は長い夢から覚めると同時に、二度と醒めない眠りについたのです。
†the end†
ここ、東大陸の南部に位置するヴァイスラントに有る、
名もない村に住んでおります。
ここはほぼ一年を通して寒気が厳しく、雪が溶けることは有りません。
私が雪に覆われていない大地を見たのは、幼い頃、
家族と共に北にあるラウプホルツに行った際だけで御座います。
その時は、私と両親、そしてまだ幼い弟のカインと共に、
唯一寒気がゆるむ夏の日に、初めて、
そしてたった一度だけ、ヴァイスラントから出たのです。
そこはとても明るく、見たこともない木々が茂り、
今まで過ごしてきた村の寒気が、嘘のようでした。
私たち家族は、その初めての土地で楽しく数日間を過ごしたのです。
まるで夢の中にいるようでした。
けれども夢は長く続きません。
また厳しい冬が来る前に、
夏の間に村に帰らなくては行けないのです。
その道中の最中から、私は再び夢の中にいます。
楽しい夢ではなく、悲しい夢です。
村に帰る道すがら、野宿をしていたある日、カインが居なくなってしまったのです。
丁度その頃、子供ばかりを狙う人浚いが多いという話を聞いていたのに。
迂闊でした。
どんなに捜しても、
食料に余裕がある限り捜しても、
弟は見付かりませんでした。
そして何年も、十何年もたった今でも弟は見付かりません。
私は身体を病み、両親は諦めてしまっているのです。
見付かるはずもありません。
昔のことを思い出しつつ、何をするでもなく私が窓の外を見ていると、雪が降り始めました。
ここでは決して珍しい光景ではありません。
けれども、その舞い落ちてくる、僅かばかりの雪を見て、私は外に飛び出しました。
長らく煩っていたために、久しぶりに踏む雪の感触。
肌を刺す寒気の刃。
宙を舞う暖かな雪。
それらを感じながら、村の入り口に向かいます。
何故か突然、弟に、カインに会えるような気がしたのです。
そして、遠くから一つの影が近づいてきました。
私は期待に胸を膨らませました。
とても目立つ格好をした、傷ついた金髪の男。
残念ながら弟ではありません。
けれども、傷を放って置いたのでは、ここではすぐに凍傷になってしまいます。
私がその男に近づこうとしたとき、虚空から人が現れたのです。
驚いてしまった私は、思わず悲鳴を上げてしまいました。
それと同時に、胸に冷たい物が滑り込み、暖かい物が流れ落ちてきました。
純白の雪が紅く染まります。
けれども、そんなことよりも、私は目の前に現れた人物の顔に見入っていました。
ずっと、ずっと再会することを願っていた顔が、そこに存在したのです。
記憶の中に映像よりも、ずっと大人びて、大きく成長していましたが、
間違いなく弟のカインです。
薄れゆく意識の中で、彼が何かを言おうとしたその瞬間に、
彼の喉から紅い飛沫が飛び散るのを見ました。
先ほどの、手負いの男が切り裂いたのです。
「無関係の者にまで手を出すとは、サソリも質が落ちたな」
紅く染めた雪の上に身体をゆだね、世界が暗くなってゆく中で、
手負いの男のその言葉と、近くに倒れたカインの手が、私の手に重なるのを感じながら、
私は長い夢から覚めると同時に、二度と醒めない眠りについたのです。
†the end†
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投稿者:bau(実行委)
サソリのお話ですね。
実は途中まで、ギュスターヴ15才の時に出てきた人さらい(野盗)をイメージしていたので、結末にはっとしました。
確かに彼らがサソリに売り飛ばしている可能性もあるんですよね…。
そして、売り飛ばされたカインとの再会が、こんな形になろうとは…。
おそらくカインは厳しい試練の中で、アベルの顔すら記憶から消えてしまったのでしょう。
…なんとも言えない結末へと私を導いていくと同時に、ヴァイスラントの描写の美しさがストーリーを盛り上げています。
ヨハンでもない、シナリオではほとんど語られることのない、いちサソリとしてのストーリー。
サンダイルの世界には様々なストーリーが存在しているのだな、ということを感じつつ、楽しませて頂きました。
藤和様、ありがとうございました!
投稿者:藤和 http://www5b.biglobe.ne.jp/~icy/
>bauさん
コメントありがとうございます。
なんかパーフェクトワークスだったかアルティマニアだったかで、人攫いが子供をサソリに売っているみたいなことを書かれていた気がするので、ちょっとこんな話を書いてみました。
この話を書いたの自体がもう数年前なのですが…
オリジナルのキャラがメインなので、投稿するのはどうかなと思ったのですが、このようなコメントをいただけでうれしいです。