In the bright

In the bright

投稿者:レーゼン [home]


   虹がかかるあの空を飛び交う鳥を見ていた。
   希望に笑い、顔をほころばせる彼らの姿を見ていた。
   間違いなく、そこに存在していた自分自身の姿は、もう見えなくなっていた。







   「分かっていたのだ」

   どうしてそんな声を出したのか自分でも不思議だった。
   ただもううっすらと自らのアニマが立ち上っていく様を見ていると、
   無性にこのまま行かせるなと何かが訴えるのだ。
   何をすればいいのかも、何を語ればいいのかも全く判別のつかぬ頭で、ぼんやりと言葉を紡いだ。

   「力の代償はいつか私を滅ぼすことは、分かっていた」
   「...それなら、どうして」
   「分からぬ。ただ気づけば私はここに立っていた。後悔などする暇もなかった」
   「...」
   「アニマが、似ている。あの男の娘であろう?」
   「お父さんを知っているのっ?」
   「僅かな時しか行動を共にしなかったがな。あの空にかかる虹だけは今も私の心に思い描くことができる」

   少女は私の傍に寄ってもっと詳しくと話をせがんだ。
   人の体に戻った私とは言え、もはや手足を動かすことすら難しい。
   それを理解していた少女の仲間たちは先に行くとだけ言葉を残し、広間に私たちだけを残した。

   「強いな。君たちは」
   「お父さんのこと、聞かせて欲しい」
   「君の父親は夢を語るのが好きな男だった。見果てぬ夢に想いを馳せては決して辿りつかぬこともまた自覚していた」
   「...」
   「あの頃だけが、あの時だけが私の中に眠る輝かしい過去なのだ。それを形作った者たちがあまりに眩しすぎて...」

   少女は何も語らずに私の右手を握った。
   人の形を保つことすら難しくなってきている。私を構成するアニマが煌びやかに溶けていくのが分かる。
   輝かしい。
   私にとって残された最後の輝きは、この世の一部となり得ることであったのだと、何とはなく理解に及んだ。
   それが間違いではないと答えるようにアニマは輝きを見せては私の仮想を盛り立てるように眩しすぎるほどの輝きを放つ。
   あぁこの瞬間の何と素晴らしいことか。
   知らず力を求めだした私の愚かしさが影を潜めると同時に失った全てを思い出しては体中が歓喜に震えている。

   「お母さんからも何度か聞いたの。お父さん、よく夢を語る人だったって。それに向かって努力ができる人だったって」
   「それも間違いではない。ただ、彼にとって夢とは二つの可能性を持っていた」
   「可能性?」
   「叶う夢、叶わぬ夢。そんな半端なものではなくもっと現実味を帯びたもの。そう、
    叶えるか、叶えぬか。そんな可能性だ」
   「お父さん、すごい人だったの?」
   「少なくとも私にはな。齢十五の青い時代の私だ。夢の一つも持っていただろうがそれすら霞んでしまうようだった」
   「..」
   「夢想家ではない。それを強く感じた。あの場所ですら彼は失われたはずの技術を呼び戻して一つの夢を作ったのだから」
   「お父さん、その時どうだった?」
   「とても愉快に笑っていた。だが残念ながら、その時の女性は君の母親ではなかったようだがな」
   「うん。お母さん言ってたもん。お父さん浮気性だって」

   苦笑しながらも少女は自らの父の姿を浮かべては、その全てを許容してしまう危うさを備えていた。
   それだけ少女の中に巣食う父親の姿は大きく、そして手が届かないものなのであろう。
   いよいよアニマが尽きようかという刹那になって異変に気づく。
   自らの中にあった嫌悪すべきアニマが消えていくのを感じたのだ。あの男と出会った時から感じていたあのアニマが。
   あの男、いや、もはやアレは人ではない。
   アレの正体が何なのかは結局分からぬままであったが、少なくとも幸福をもたらすようなものではなかった。
   それが消えていくということは、私は今までアレに侵食されてでもいたのだろうか。今となってはそれすらも合点がいく。
   そこに希望などない。
   もちろん先もない。私の歴史はここで途切れる。この少女とは正反対の私にどこか可笑しさがこみ上げてきた。

   「どうしたの?」
   「いや。すまんな。こうして腰を据えて誰かと話すことなど久しいことであるからな。
    何故だか少し心が浮ついているようだ」
   「...楽しい人生だって思える?」
   「どうかな。総括してそうだと言い切る自身はない。だが確かにそんな時期も存在していたとは言い切れる」
   「どうして、力を求めるようなことをしたの?」
   「分からぬ。そうせねばならぬような、そんな気になっていたことだけは覚えがあるのだ」
   「エッグのせいなのかな」
   「えっぐ、アレのことか」
   「エッグは、どうしてこの世界に生まれたんだろう」
   「...解せないな。理由などあるのか?」
   「きっとあると思うよ。だってぜ〜んぶ、生まれてくるのには理由があるもの。いいことか悪いことかは別にして」
   「...」
   「そろそろ、お別れだね」
   「...そうだな。話せてよかった」
   「お父さんに会ったらよろしく言っておいてね」
   「伝えておこう。君の...いや、貴方の娘はとても勇敢に、美しく育っていた、と」
   「最後に持ち上げたって何もでないよ〜だ」
   「...アレは、ひょっとしたら寂しかったのかもしれないな」
   「え?」
   「...今わの際の戯言だ。もう行け。迷うな。君が信じる道だけを進め。それはきっと正しい」
   「それじゃ最後にする。最後の質問」
   「何だ」





   私の持ってる夢の可能性はどっちなのかな。




















   「派手にやられたみたいだな」

   気づけば姿は十五の時分に戻っていた。
   そして語りかけてきたのはいつかの夢を語るあの男。

   「...言伝がありますよ」
   「いいよ。全部見てたし」
   「...なるほど」
   「さぁ、お前も舞台から降りたのなら観客席に行こう。最後まで見届けてやろうじゃないか。どこまでやれるのかをな」
   「よく言いますね。貴方には先が見えているクセに」
   「言うようになったね。お前も」
   「姿がこうであれ、一度人生を終えた身ですから」
   「後悔してるか?」
   「...さぁ」
   「ま、堅苦しい話は止めにしよう。そういやお前、エレノアが会いたがってたんだよ。ちょっと顔見せに行こうぜ」
   「娘を見守らなくてよろしいので?最後の正念場でしょうに」
   「バカ。お前俺に言ったろ」



   先は見えてんだ。どこにいたって結果は俺の中にあんだよ。



   意気揚々と男は歩く。
   少年は苦笑を漏らし、男の背を追った。

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投稿者:bau(実行委)

炎の将魔戦での語られなかったエピソード、ですね。
あのシーンは私も大好きです。
サルゴンが自分の運命を悟りつつも、なお毅然とした行動で臨む…。
サルゴンに感動しつつ、ジニーの「どうして…」に物悲しさを感じる、名シーンだと。

そんな名シーンでは描かれなかったサルゴンとジニーの一幕。
サルゴンの悟ったかのような回想を交えた最期と、
それとは対照的にあどけない所を残しつつもしっかりと看取るジニー。
そんな二人が見事に絡み合っていて、シーンに引きずり込まれました。
しかし、個人的にはリッチに一番惚れました。
リッチの明るく前向きで、しかも芯が通っている凛とした姿は、
やはり魅了されるなぁ…と。そしてそれを見事に描かれたと思います。

新年早々、素晴らしい小説を読ませて頂きました。ありがとうございます!!

投稿者:レーゼン

bau様。コメントどうもありがとうございますっ^^。
作者冥利に尽きます。

サルゴンは大好きなキャラなんんです。
いつかお話を書いてみたいと思っていたので、これを機に書いてみました。
リッチは味のあるセリフを持たせてみるといいキャラになりますね^^。
色魔が無ければまぁ文句はないんですが(ひょっとしてウィルも...?)。
今はアーカイブスを使ってもう一度プレイしている最中です。
懐かしくて感動に浸るあまり、前に進まないのが難点ですけど^^。

これからも頑張っていきますのでどうぞよろしくお願い致します。